ふるさと納税返礼品競争の実態と自治体・総務省の攻防

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ふるさと納税返礼品競争の実態と自治体・総務省の攻防

ふるさと納税制度は2008年の導入以来、納税者が応援したい自治体に寄付できる仕組みとして定着してきました。しかし、制度の本来の目的である「ふるさとへの貢献」から次第に焦点が移り、返礼品の豪華さを競う「返礼品競争」へと変質していった側面は否めません。本記事では、ふるさと納税返礼品をめぐる自治体間の競争激化と、それに対する総務省の規制、そして両者の攻防の実態について詳しく解説します。

ふるさと納税返礼品競争の激化:地域の特産品から高級家電まで

ふるさと納税制度が始まった当初、返礼品は地域の特産品や農産物など、その土地ならではの産物が中心でした。しかし、制度が浸透するにつれて、より多くの寄付を集めようとする自治体間の競争が激化し、返礼品の内容も徐々に変化していきました。例えば、北海道の新鮮な海産物、山形の果物、宮崎の牛肉など、地域の特産品を前面に押し出す自治体がある一方で、カニやうなぎといった高級食材を大量に提供する自治体も現れました。

特に2014年頃から返礼品競争は過熱し、地域産品という枠を超えて、家電製品やゴルフ用品、旅行券など、地域との関連性が薄い高額商品が返礼品として提供されるようになりました。静岡県小山町が提供していた「アマゾンギフト券」や、大阪府泉佐野市による「旅行クーポン」などは、地域振興という本来の目的から逸脱しているとして批判を浴びました。一部の自治体では返礼割合(寄付額に対する返礼品の価値の割合)が50%を超えるケースも出現し、「ふるさと納税は実質的な買い物ではないか」という批判も高まりました。

こうした返礼品競争の激化は、財政基盤の弱い地方自治体にとっては新たな収入源となった一方で、都市部の自治体にとっては税収減という形で大きな打撃となりました。東京都や神奈川県、愛知県などの大都市圏では、住民が他の自治体へふるさと納税を行うことによる税収減が顕著になり、2018年度には東京都だけで約760億円の税収減となりました。この状況に対して、「制度の本来の趣旨から外れている」「税の公平性を損なっている」との声が高まり、総務省による規制強化へとつながっていくことになります。

総務省VS自治体:返礼品規制をめぐる攻防と制度の行方

返礼品競争の過熱を受けて、総務省は2015年頃から段階的に規制を強化していきました。最初は通知という形で「返礼品は地域の特産品とすること」「返礼割合は3割以下にすること」などの要請を行いましたが、強制力がなかったため、一部の自治体はこれを無視し続けました。2018年には総務大臣名で「返礼品は地場産品とすること」「返礼割合は寄付額の3割以下とすること」などの通知が出され、さらに2019年には法改正によって、これらのルールに従わない自治体をふるさと納税の対象外にできる制度が導入されました。

法改正後、総務省は返礼品規制に従わない泉佐野市など4自治体をふるさと納税の対象から除外する処分を行いました。これに対して泉佐野市は「地方自治の侵害である」として処分の取り消しを求めて提訴。2020年6月、最高裁は「総務大臣の判断には裁量権の逸脱・濫用がある」として泉佐野市側の訴えを認める判決を下しました。しかし、その後も総務省は「地場産品」の定義を明確化するなどして規制の実効性を高める取り組みを続けています。

この攻防の背景には、ふるさと納税制度の本質に関する解釈の違いがあります。総務省は「地方創生」「地域活性化」という本来の目的を重視し、返礼品競争を抑制しようとしています。一方、自治体側は「地方の自主性・独自性を尊重すべき」「都市と地方の税収格差是正に寄与している」として、ある程度の自由度を求めています。現在は総務省の規制が一定の効果を上げ、極端な返礼品競争は沈静化しつつありますが、「地場産品」の解釈をめぐって自治体と総務省の綱引きは続いています。例えば、地元の工場で製造されているが原材料は他地域から調達している製品や、地元企業が販売している商品の扱いなど、グレーゾーンも多く存在しています。

ふるさと納税制度は、返礼品競争の過熱と総務省による規制強化という攻防を経て、現在は一定の落ち着きを見せています。しかし、制度の本来の趣旨である「ふるさとへの貢献」と「地方創生」という理念と、魅力的な返礼品を提供して寄付を集めたいという自治体の思惑の間には、今なお緊張関係が存在しています。今後は、単なる返礼品目当ての寄付ではなく、地域の魅力や特色を生かした持続可能な形でのふるさと納税の在り方が模索されていくでしょう。総務省と自治体が対立するのではなく、地方創生という共通の目標に向けて協力関係を構築し、制度の健全な発展につなげていくことが求められています。